日時:2021年2月2日(火)17:00-
演題:海洋生物の絶滅を誘発した三畳紀の「雨の時代」~カーニアン多雨事象とパンサラサ海の巨大火成岩岩石区~
講演者:尾上哲治(九州大学)
要旨: 中生代の三畳紀(約2億5190万年前~2億130万年前)という時代の気候は、総じて高温乾燥であったことが知られています。ところが、三畳紀の「カーニアン階」と呼ばれる時代の地層には、世界各地で湿潤な気候の痕跡が認められており、それらの記録は、当時の地球に約200万年間にわたる「雨の時代」が存在したことを示していました。「カーニアン多雨事象(CPE: Carnian Pluvial Episode)」と呼ばれるこの気候変化は、いくつかの生物群の絶滅や大規模な進化的変化があった時期と一致していることが知られています。そして最近では、この長雨を引き起こした原因として、現在の北米北西部に分布するランゲリア洪水玄武岩の火山活動が挙げられてきました。しかし玄武岩の噴出年代測定に伴う不確定性のために、ランゲリアの火山噴火とカーニアンの気候変化及び生物群の変化が同時期に起きたと明言するのは難しいとされてきました。 そこで私たちの研究グループは、カーニアン多雨事象と火山活動の関連性について解明するため、岐阜県坂祝町の木曽川河床に観察されるチャートという岩石を対象にオスミウム同位体分析を行いました。研究の結果、地球内部のマントル物質に特有の低いオスミウム同位体比が、カーニアン前期のチャートから検出されました。これは、大規模な火山活動に由来するオスミウムが、カーニアン前期の海洋に大量に供給されたことを意味します。この火山活動により噴出した火山岩の候補としては、上記のランゲリア洪水玄武岩が挙げられますが、日本の三宝帯や極東ロシアのタウハ帯といった地質体にもカーニアン前期に噴出した玄武岩が総延長3000 kmにわたって分布しています。本発表では、これらの環太平洋を取り囲むように分布する玄武岩は、カーニアン前期の超海洋パンサラサ海で巨大火成岩岩石区を形成していたとする仮説を提唱し、カーニアン多雨事象がこの大規模火山活動により引き起こされた可能性について議論します。